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大阪地方裁判所 昭和41年(手ワ)3286号 判決 1969年7月17日

原告(昭和四一年(手ワ)第三二八六号事件被告 昭和四二年(ワ)第五五一号事件原告) 富士文化工業株式会社

右訴訟代理人弁護士 池田俊

右訴訟復代理人弁護士 寺岡清

同 奥村正道

被告(昭和四二年(ワ)第五五一号事件被告) 株式会社北岡商店

被告(昭和四一年(手ワ)第三二八六号事件原告 昭和四二年(ワ)第五五一号事件被告) 大阪第一信用金庫

右被告両名訴訟代理人弁護士 北村巖

同 北村春江

同 酒井圭次

主文

一、昭和四二年(ワ)第五五一号事件につき、

(一)、被告会社は原告に対し金七六七、四七一円とこれに対する昭和四二年二月一七日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(二)、原告が、別紙目録(一)記載の約束手形一二通(額面合計金七七三七、三六九円)について、被告両名に対し、振出人としての支払義務がないことを確認する。

二、昭和四一年(手ワ)第三二八六号事件につき被告金庫の原告に対する請求はこれを棄却する。

三、訴訟費用中、昭和四一年(手ワ)第三二八六号事件について生じたものは被告金庫の負担とし、同四二年(ワ)第五五一号事件について生じたものは被告両名の負担とする。

四、この判決は第一項(一)に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

昭和四二年(ワ)第五五一号事件(以下、単に第五五一号事件という)について、原告訴訟代理人は主文第一項(請求元本を金七六七、四九一円としているのは、計算違いによる誤記と認める。)及び第三項後段と同旨の判決、並びに第一項(一)につき仮執行の宣言を求め、被告ら訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、同四一年(手ワ)第三二八六号事件(以下単に、第三二八六号事件という)について被告金庫訴訟代理人は、「原告は被告金庫に対し、金七、七三七、三六九円とこれに対する昭和四一年四月二一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決、並びに仮執行の宣言を求め、原告訴訟代理人は、主文第二項及び第三項前段と同旨の判決を求めた。<以下省略>。

理由

(第三二八六号事件について)

一、被告金庫主張の請求原因事実については当事者間に争いがない。

二、そこで原告主張の抗弁について判断する。

(一)原告主張の(二)(1)(2)の事実、即ち被告会社から被告金庫への裏書が仮装のものであり、また訴訟をすることを主たる目的としてなされた事実については、いずれもこれを認めるに足る証拠がないから、右抗弁はいずれも採用できない。

(二)相殺の抗弁について

被告会社が本件(二)の手形八通を湯浅金物に対して振り出したこと、および本件(一)の手形一二通がいずれも支払拒絶証書作成期間経過後の昭和四一年四月一一日、訴外大阪商業信用組合より被告会社に戻り裏書され、ついで同年五月一一日被告会社から被告金庫にいわゆる期限後裏書されたことについては当事者間に争いがなく、原告が本件(二)の手形の所持人であること、ならびに、本件(二)の手形のうち(3)(4)の手形を除くその余の手形八通が各満期日に、(3)、(4)の手形は同年一月一二日に、順次支払のため支払場所に呈示されたが、いずれも支払を拒絶されたことは、いずれも被告金庫において明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべく<証拠>によれば裏書の連続が認められるから、原告は本件(二)の手形をいずれも適法に所持していることが推定される。

被告金庫は、原告が本件(二)の手形について無権利者であると主張するところ、これを認めるに足る証拠がない。却って<証拠>を総合すると、原告は厨暖房器具製造を業とし、フジカ販売は原告の製品のみを取扱う販売会社で原告の子会社であり、被告会社は原告製品を、その一部はフジカ販売から直接購入することがあるけれども、殆んど大部分は湯浅金物を通じて購入してきたほか、原告から製品の委託加工を請負ったこともあったところ、昭和四〇年の半ばごろより被告会社の経営状態が悪いとの噂が流れたため、湯浅金物では被告会社との取引枠を引き締めていたが、被告会社に対して委託加工による債務を負担していることにより、一種の保証を有するような関係にあった原告が、湯浅金物に対し、万一被告会社において商品代金を支払えないときは、原告において責任をもつから被告会社にストーブを販売してやってほしいと要請したので、これを容れた湯浅金物が同年一〇月ごろから集中的にストーブを被告会社に納入したこと、本件(二)の手形は右ストーブ代金支払のため被告会社より湯浅金物に振り出されたものであり、また本件(一)の手形は原告から被告会社に対する加工賃支払のため振り出されたものであること、被告会社は、同年一一月始めごろ倒産したため、債権者総会が開かれ協議の結果、被告会社の財産が整理されることになり、本件(二)の手形の回収が殆んど見込みがなくなったため、湯浅金物との間において右ストーブの取引について前記のような経緯、殊に原告が被告会社の債務につき責任を負う旨の約束がなされていたところから、湯浅金物がフジカ販売に対し支払うべき右代金決済のため本件(二)の手形が湯浅金物からフジカ販売へ、フジカ販売から原告に順次裏書され、原告が手形上の権利者となったことの各事実が認められ、右認定を覆えすに足る確証がない。

そうすると、原告は、本件(一)手形の譲渡人である被告会社に対抗し得る事由をもって期限後譲受人である被告金庫に対し対抗できるわけであり、原告の被告会社に対して有する本件(二)の手形金債権と、原告の被告会社に対し負担する本件(一)の手形金債務は、被告会社が右(一)の手形の戻り裏書を受けてこれを所持するに至った昭和四一年四月一一日に相殺適状にあった(本件(一)の手形の内(12)の手形については満期未到来であるが、これについては原告において期限の利益を放棄し得るから。)というべきところ、原告は、昭和四二年二月八日の第三二八六号事件口頭弁論期日において被告金庫に対し本件(二)の手形金合計金八、五〇四、八四〇円の債権を自働債権、本件(一)の手形金合計金七、七三七、三六九円の債権を受働債権とし、両者を対当額において相殺する旨の意思表示をしたことは右事件の記録上明らかである。そしてこのように手形金の請求を受けた者が、請求者に対して有する手形金債権を自働債権として、訴訟上相殺の意思表示をなす場合には自働債権を表彰する手形を交付する必要がなく、また、受働債権を表彰する手形が相殺適状になった後に期限後裏書され、右被裏書人が請求してきた場合には、相殺の意思表示は被裏書人に対してなすをもって足ると解するのが相当であるから、原告の被告金庫に対してなした右相殺は有効であるといわねばならない。<中略>

三、そうすると、原告の被告金庫に対し負担した本件(一)の手形振出人としての債務は相殺適状の生じた昭和四一年四月一一日に、原告主張の自働債権たる本件(二)の手形の内(1)ないし(7)の手形金、及び(8)の手形金の内金一三〇、三六九円と対当額において相殺されたことにより消滅したといわねばならないから、これが存在することを前提とする被告金庫の本訴請求は失当として棄却を免がれない。

(第五五一号事件について)<省略>

(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 内園盛久 住田金夫)

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